大判例

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仙台高等裁判所 昭和28年(う)60号 判決

論旨は、被害者ふく子の当時はいていたズロース附着の精液による血液型はO型であるのに、被告人の血液型はA型であるから、ふく子は当夜かそれに近接した時に被告人以外の男性とも性交した事実を推定せしめるもので、ふく子に与えた前記傷害はその何人の所為によるか断定できない筈であり、この点を審理せずに被告人の罪責を認めた原判決は理由不備乃至齟齬の違法がある旨主張する。

(1)、成程、警察技官佐藤好武外一名作成の鑑定書によれば、被害者ふく子の当夜はいていたズロースにつき精液が附着していてその血液型はO型である旨の記載があり、原審は被告人の血液による血液型を取調べていないところ、当審における事実取調の結果によれば、被告人の血液による血液型はA型であることが明かである。しかし、当審鑑定人村上次男作成の鑑定書によれば、前記佐藤鑑定人等の行つた調査方法では本件ズロースの汚班がO型の人の分泌液に由来するか何うか決めかねる筈であり、被告人はいわゆる非排泄型(更に細分すれば弱排泄型)に属するものであることが認められ、当審証人佐藤好武も、同人等の調査方法は本人の血液やO型の血清を使用しなかつたので、二〇%の誤差の出ることは学問上自明であつて、その鑑定書記載の如くO型であると結論したことは誤りであつた旨証言しているのである(因みに、非排泄型の者の精液による血液型の調査は往々にしてO型と誤られ易いとされる)。従つて、本件ズロース附着の精液が被告人のものであると認定することは何等矛盾しないのである(被告人は当審検証の際の供述では、射精しなかつたと述べているが、警察の取調以来原審まで一貫して射精したことを認めているのみではなく、所論被告人の手記においてもこれを認めている)。されば、原審が被告人の血液による血液型を取調べた上その結果と前記鑑定書の結論するO型との矛盾を審理しなかつたのは、審理に尽さないところがあつたといわざるを得ないが、原判決は前記佐藤好武等作成の鑑定書を証拠に採用していないし、前叙の如く被告人がふく子を強姦した事実は明かであるから、原判決は結果において所論理由不備や事実誤認を来たしていないわけである。

(2)、所論本件ズロース附着の精液による血液型がO型であり、被告人の血液型がA型である以上、ふく子は既に当夜かその近接した時に被告人以外の男性とも性交したと推定されるから、ふく子に与えた処女膜裂創やその他の傷害はその何人の所為によるか断定できない旨の主張は、本件ズロース附着の精液による血液型がO型であることを前提とするものであるが、その前提の誤りであることは既に前叙説明のとおりであり、また後叙の如くふく子は処女であつたと認められるのであつて、所論のようにこれを以てふく子が当時被告人以外の男性とも性交したと推定するに由ないのである。尤も、村上鑑定書によれば、本件ズロースには前記精液は別として、B型排泄型の人の分泌液とO型排泄型の人の分泌液が附着していたとみられる蓋然性のあることが認められるが、その分泌液は精液ではないことが窺われるのである(おそらく被害者ふく子及びその家人のものとみられる)。

(3)、論旨は、本件ズロースに血液の附着の認められなかつたことを以て、ふく子が既に被告人以外の男性とも性交したかの疑を生ぜしめる一理由としている。成程、佐藤好武外一名作成の鑑定書によれば、本件ズロースに血液の附着は発見されないし、記録に徴すれば、ふく子は姦淫された後ズロースをはき家に帰るまで約二時間位そのままはいていたとみられる。しかし、高木ふく子の司法警察員、検察官に対する各供述調書によれば、被告人に姦淫された際陰部が裂けたように痛みを感じ、腰を動かされる度に痛いと泣いていたことが認められ、同女は処女であつたというのであり、医師矢内一夫作成の高木ふく子に対する診断書及び当審証人矢内一夫の証言によれば、同人は本件後二日目に診察したのであるが、ふく子の処女膜部に長さ約一糎の新鮮な裂創痕を認めたのであつて、処女膜裂創の時は個人によつて程度の差はあるが出血の起るのが普通であるが、本件被害者の場合も多少出血があつたと思われるが直後でないので判然しないというのである。これらによれば、本件ズロースに血液の附着が発見されなかつたからとて、その一事を以て、直ちに、出血が全然なかつたとも断定できないし、右新鮮な裂創痕が被告人の姦淫によつて生じたものでないと断定することはできない。右の事情と記録及び当審における事実取調の結果に徴しても当時同女が被告人以外の男性と性交したと疑うべき証拠は何等発見されないのであるから、右同女の処女膜部の新鮮な裂創痕は被告人の姦淫により生じたものと認めるのが相当である。

(裁判長裁判官 籠倉正治 裁判官 細野幸雄 裁判官 杉本正雄)

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